2008/07/03

無心であること

 PMオフィスの好川哲人さんが、ご自身のブログで「間」について書かれています(「プロジェクトマネジメントにおける型と守破離」)。たとえば、水墨画における空白、あるいは能における静止がこの間にあたります。ここで重要なのは、この間が心がお休みしている状態ではないということです。むしろ精神は集中し緊張の極み。それを間に表現するためには、他人にも自分自身にも緊張する心を隠していかなければならない。これが「無心」である。私はこのように理解しました。好川さんは、この無心であることが、プロジェクトでステークホルダーに相対するときに重要であると述べています。
 これを、影響力の法則でどう理解できるか。私は法則2「目標を明確にする」との関連に注目しました。
 プロジェクトに限らず仕事には、それぞれの具体的な目標がありますね。その目標が設定される理由、すなわち目的もある。「これは何のためにやっているんだ?」という問いに対する答えがあります。たとえば「新薬をX日までに上市する」という目標があり、その目的は「市場における競争優位」だったり「ひとりでも多くの患者さんの治療に、一日でも早く役立てる」であったりします。これをまとめて「プロジェクト本来の目標」としましょう。この本来の目標が相手にも伝わると、相手の心が動かされる。「よし、それならきみに協力してやる」ということになる。少なくとも、なりやすい。
 ところが、なかなかそう美しくはいきませんねえ。こちら側にいろいろな欲がありますから、それが見え隠れすること、しばしばです。たとえば、ここでいいところ見せてやろう、とか、自分の方が相手よりも物知りであるところを見せたい、とか。自分の強さ、正しさ、頭の良さを認めてもらいたくなることもあります。それは人の自然な欲望なのだと思います。これを「個人的な目標」と呼ぶとしましょう。問題は、こちら側の個人的な目標を見てとった相手が「きれい事を言っているが、本当は自分の出世欲で仕事しているんじゃないか?」と尻込みすること。こう感じられてしまったら、相手が協力するのをためらっても仕方ないでしょう?
 ここで「無心」が重要なのだと思います。本来の目標に向かって、相手と真剣に向き合う。そこでは、自分の「個人的な目標」を脇に置いておかなければなりません。脇に置くというのは能動的な心の働きで、気づかぬとは違います。まず自分の欲望や欲求を知らなければ、それを脇に置くことはできません。よって自分をだますのとも違うと思います。ここがなんとも微妙なところ。これには鍛錬が必要でしょう。「守破離」と結びつけられている、好川さんの論点は慧眼と思えます。

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