2008/10/25

クライエントとの関係

 クライエントとの関係づくりは、営業やSEのかたにとっては大きなチャレンジだと思います。IT関連の開発会社を経営する友人が、元請けベンダーがクライエントに対して弱すぎると、嘆いていました。今日、ある研修の参加者の声を読んでいたところ、やはり同じような状況の難しさが指摘されていました。クライエントとベンダーの上下関係は、一度「上下」と認識されてしまうと、それをあらためるのはほんとうに難しくなると思います。「下は上のいうことを聞くものである」という思いこみは、ほんとうに強いですよね。友人は「官尊民卑」という言葉を3回も使いました。今世紀に入って初めて聞いた言葉を一晩に3回も聞くとは・・・彼が言いたかったのは、それほど客と業者の関係は型にはまってしまっている、ということだと思います。
 さて、どう対応できるでしょうか?私には、これという解がありません。ただ、ひとつ意表をつくことはできるでしょう。つまり、下が下として当然の用に期待されている、その期待をいい意味で裏切るのです。今日ふと思い出したことがあります。私は社会に出て1年目。自動車会社に就職した私は、販売会社に出向し販売研修に臨んでいました。クルマのセールスをやっていたのです。ご存じのように、クルマは価格交渉をして買う日本では珍しい消費財です。どれだけ値切れたか、はある種の「男の勲章」のようなものであり、値切ることを楽しみにしているお客さんもいらっしゃいました。最初から「いくら」という話しになって、まず購入に結びつくことはありません。そういう方は、買うことやクルマを使うことよりも、しばしば値切ること自体が目的だからです。ご本人も途中から目的がすり替わってしまうのでしょう。ですから、販売側の課題は、いかにして値引きの話しではなくクルマを使ったときの価値の話しに持ち込むかなのです。いろいろと試行錯誤したのですが、あるとき私は価格交渉にしないキメ言葉を見つけました。それは、「いくら値引きするの?」といわれたら、相手の目を見てにやっと笑い「お気に召すまで」と応えることでした。こうすると、大抵のお客さんは、ちょっと驚いたような顔をして、それから私の話を聞いてくれるようになりました。大概の販売担当者は同じ質問に対して、「えー勘弁してくださいよ」とか「うちも厳しいんですよ」とか、まじめに応えてしまいます。こうして値引きゲームのわなにはまってしまっていました。「お気に召すまで」は、意外な回答、意表をつかれるようです。
 でも、この対応は2つの点で理に適っています。それは「お気に召すまで」が、「私は価格交渉ゲームはしません、お客さんにも喜んでいただける Win-Win ゲームをします」、と宣言するようなメッセージになっているということです。後にカウンセリングを学んでいるときに、カウンセラーがクライエントに対してとる戦略に似たようなものがありました。ゲームの流れを変えるというのは、例えば論理療法やTA理論の中にあります。昨年なくなったアルバート・エリスは、クライエントに歌を歌わせるのを好みました。これなど、非合理的なセルフトーク(頭の中での思いこみ)を断つのに役立ちます。主導権をこちらに持ってこられるというわけです。もうひとつは、実はお客さんがお気に召さないなら、いずれにしてもこの商談はないことになります。購買の意思決定は売り手ではなく買い手にあるのですから、私の台詞はばかばかしいほどあたりまえのことですよね。しかし、これがお客さんが求めている本質を突いているということも事実です。「気に入れば買う」というあたりまえのことを、お客さんに思い出させた。それによって、主導権がこちらに移ったということでしょう。
 遠回りになりましたが、ベンダー側がクライエントの意表を衝けないか。そこで私が言えるのは、ゲームの流れを変えること、その際に相手がほんとうに望んでいること(それは本人も気づいていないか忘れていることが多い)を、先にこちらから言ってあげることにあるような気がします・・・ということです。それが何であるかは相手次第・・・・そこが難しいところ。でも売れるセールスマンは、多かれ少なかれそんなことをやっていました。
 カレンシーには接待とかお愛想とかより、安くて効果的なものがまだまだありますよ。(この項続く)